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熊本家庭裁判所天草支部 昭和42年(家)118号 審判 1967年8月11日

申立人 田中ケイ子(仮名)

被相続人 田中吾郎(仮名)

主文

被相続人亡田中吾郎(大正二年一二月三〇日死亡)の相続財産たる別紙目録記載の不動産を申立人田中ケイ子に分与する。

理由

申立人は主文同旨の審判を求めその実情として

一  被相続人田中吾郎は申立人の祖父田中栄二郎の兄田中万吉の子で申立人とは従伯父の間柄である。

二  被相続人の両親は同人の幼少の頃死亡したので同人はその祖父に当る田中安吉の養育をうけていたが同祖父も明治三一年六月被相続人が一四歳の時死亡したので同家を相続したが身寄りがないため申立人の祖父が引き取り養育に当り、その際別紙目録記載の不動産(昭和四二年五月一六日付亡田中吾郎相続財産として所有権保存登記)(以下本件遺産という)も祖父栄二郎がその支配に当ることになり以来昭和六年四月同人が死亡するまで納税義務者として公課等も凡て負担して来た。

三  被相続人は前述の経緯で一四歳以降祖父の許で養育をうけていたが明治三九年同人が二二歳の時同部落の川村某ら三名と南米ペルーに出稼することになり、旅費その他一切の支度も祖父の援助により調達、後事一切を祖父に托し渡航したが一回の音信があつたのみで消息なく加えて一緒に渡航した川村某は五年後に事業に失敗の上帰郷し被相続人とは渡航直後別々に入植したという事で祖父はその安否を案じながら前記昭和六年に死亡した。

四  申立人の父母は祖父より先に死亡していたので申立人が戸主として田中家を相続し伯母及び昭和二四年に迎えた婿養子行夫等の協力のもとに本件遺産を承継し、之が支配管理に専念し又被相続人がその後も消息なく生死不明であつたため申立人は御庁に対し昭和二三年被相続人の失踪宣告の申立をなし同二四年五月一九日同審判が確定し同人は大正二年一二月三〇日死亡したものとみなされ以来申立人は一二月三〇日を同人の命日として同家の祖先とともに祭祀を行い現在に至つている。

五  ところが被相続人には直系卑属なく指定又は選定の相続人もなかつたので申立人の申立により御庁は本件遺産の相続財産管理人として申立人の夫である田中行夫を選任されたが夫は昭和四〇年三月死亡した。

六  そこで申立人は更に昭和四一年四月三〇日御庁に対し本件遺産につき相続財産管理人の選任申立をなし同年五月一三日本渡市○○町大字○○一、一三八番地木田雄一が選任されその旨公告された。

そこで管理人は民法第九五七条に基き相続債権者及び受遺者に対し昭和四一年一〇月一〇日までに請求の申出をする旨公告したが、その期間内に相続人のあることが判明しなかつたので、御庁はさらに管理人の申立により民法第九五八条により相続権を主張するものは昭和四二年五月一〇日まで申出されたい旨公告されたが、その期間内に権利を主張する者がなかつた。

七  申立人と被相続人との関係は要旨一乃至四に述べたとおりであり、所謂民法九五八条の三にいう特別縁故者に該当するので民法所定の手続を経たるうえ本件遺産の分与を求めるため本件申立に及んだというのである。

当裁判所の判断

当庁昭和四一年(家)第一五七号相続財産管理人選任事件及び同昭和四一年(家)第二七〇号相続人捜索事件並びに本件の記録添付の除籍謄本、戸籍謄本、登記簿謄本及び本渡市長発行の申立人に係る納税証明書を精査し、申立人本人、財産管理人木田雄一及び被相続人の従姉杉本ヤスの審問の結果を総合すると次のような事実が認められる。

すなわち申立人は被相続人の従姪に当り被相続人が南米渡航時申立人は未だ出生しておらず面識はないが、被相続人は同人が一四歳から二二歳に至る八年間に亘り申立人の祖父栄二郎の許で養育をうけ、かつ明治三九年南米出稼に際しては旅費その他一切の支度を同人より調達して貰い渡航したものであり、かつ本件遺産については被相続人の祖父田中安吉が死亡した明治三一年以来申立人の祖父が管理支配しその後申立人に承継され公課も完納して来たものであり又被相続人を含め同家の位牌も申立人方で保管し墳墓の管理、祭祀を行い現在に立ち至つている。然して本件申立も民法所定の手続を経たる上適法の期間内に申立られ、その期間内には申立人以外の者から同趣旨の申立はなかつたものである。

さて、このような事情の下で申立人を被相続人の特別縁故者と認め之に本件遺産を分与することの当否について按ずるに、そもそも昭和三七年民法の改正により同法九五八条の三が設けられた趣旨は、相続人なき相続財産についてはなるべく国庫に帰属せしめるということをさけて相当と認められる縁故者がいるならばその者に帰属させることが被相続人の意思にもそうゆえんであり、かつ又国家社会のためにもなるという配慮から設けられたものと考える。この場合被相続人の意思の合致の観点からのみみれば被相続人の意思の範囲は被相続人と同時に存在していなかつた者には及ぶ道理はないともいえるが、相続財産分与の制度はそのような場合も含めて遣産の帰属者がない場合なお諸般の事情を考慮して相当であれば特別縁故者に帰属せしめる趣旨と解するを相当と思料する。従つて、申立人が被相続人の生存中未だ存在しなかつたということは本人が被相続人の特別縁故者となることを妨げることにはならない。

以上当裁判所が認定した事実と見解により当裁判所は本件申立は手続的にも実体的にも適法と認め申立人田中ケイ子を被相続人田中吾郎の民法第九五八条の三にいう特別縁故者と認め同人に本件遺産を分与するを相当と認め相続財産管理人木田雄一の意見を聴き、主文のとおり審判する。

(家事審判官 松信尚章)

別紙(編略)

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